二項定理の証明と応用|思考力を鍛える数学

二項定理は非常に汎用性が高く,いろいろなところで登場します.

$(x+y)^2$ を展開すると,$(x+y)^{2}=x^2+2xy+y^2$ となります. また,$(x+y)^3$ を展開すると,$(x+y)^3=x^3+3x^2y+3xy^2+y^3$ となります.このあたりは多くの人が公式として覚えているはずです.では,指数をさらに大きくして,$(x+y)^4,(x+y)^5,…$ の展開は一般にどうなるでしょうか.

一般の自然数 $n$ について,$(x+y)^n$ の展開の結果を表すのが二項定理です.

二項定理:  $$\large (x+y)^n=\sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C} _k\ x^{n-k}y^{k}$$

ここで,$n$ は自然数で,$x,y$ はどのような数でもよいです.定数でも変数でも構いません.
たとえば,$n=4$ のときは, $$(x+y)^4= \sum_{k=0}^4 {}_4 \mathrm{C} _k x^{4-k}y^{k}={}_4 \mathrm{C} _0 x^4+{}_4 \mathrm{C} _1 x^3y+{}_4 \mathrm{C} _2 x^2y^2+{}_4 \mathrm{C} _3 xy^3+{}_4 \mathrm{C} _4 y^4$$ ここで,二項係数の公式 ${}_n \mathrm{C} _k=\frac{n!}{k!(n-k)!}$ を用いると, $$=x^4+4x^3y+6x^2y^2+4xy^3+y^4$$ と求められます.

注意

・二項係数について,${}_n \mathrm{C} _k={}_n \mathrm{C} _{n-k}$ が成り立つので,$(x+y)^n=\sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C} _k\ x^{k}y^{n-k}$ と書いても同じことです.これはつまり,$x$ と $y$ について対称性があるということですが,左辺の $(x+y)^n$ は対称式なので,右辺も対称式になることは明らかです.

・和は $0$ から $n$ までとっていることに気をつけて下さい.($1$ からではない!) したがって,右辺は $n+1$ 項の和という形になっています.

二項定理は数学的帰納法を用いて証明することができます.

数学的帰納法による証明: (i) $n=1$ のとき,明らかに等式は成り立つ.
(ii) $(x+y)^n=\sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C} _k\ x^{n-k}y^{k}$ が成り立つと仮定して, $$(x+y)^{n+1}=\sum_{k=0}^{n+1} {}_{n+1} \mathrm{C} _k\ x^{n+1-k}y^{k}$$ が成り立つことを示す. $$(x+y)^{n+1}=(x+y)(x+y)^{n}$$ 帰納法の仮定より, $$=(x+y)\left(\sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C} _k\ x^{n-k}y^{k}\right)$$ $$=x\left(\sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C} _k\ x^{n-k}y^{k}\right)+y\left(\sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C} _k\ x^{n-k}y^{k}\right)$$ $$=\sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C} _k\ x^{n-k+1}y^{k}+\sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C} _k\ x^{n-k}y^{k+1}$$ $$=x^{n+1}+\sum_{k=1}^n {}_n \mathrm{C}_k x^{n-k+1}y^k +\underline{\sum_{k=0}^{n-1} {}_n \mathrm{C} _k x^{n-k}y^{k+1}} +y^{n+1}$$ ここで,下線部において,$k+1=t$ とおくと, $$=x^{n+1}+\sum_{k=1}^n {}_n \mathrm{C}_k x^{n-k+1}y^k +\underline{\sum_{t=1}^{n} {}_n \mathrm{C} _{t-1} x^{n-t+1}y^{t}} +y^{n+1}$$ $k$ や $t$ は和をとるために一時的に使われる変数にすぎないので,下線部の $t$ を $k$ に置き換えても問題ありません.したがって, $$=x^{n+1}+\sum_{k=1}^n {}_n \mathrm{C}_k x^{n-k+1}y^k +\sum_{k=1}^{n} {}_n \mathrm{C} _{k-1} x^{n-k+1}y^{k} +y^{n+1}$$ $$=x^{n+1}+\sum_{k=1}^n \left({}_n \mathrm{C} _k +{}_n \mathrm{C} _{k-1} \right) x^{n-k+1}y^k +y^{n+1}$$ ここで,公式 ${}_{n+1} \mathrm{C} _k ={}_n \mathrm{C} _k +{}_n \mathrm{C} _{k-1}$ を用いると, $$=x^{n+1}+\sum_{k=1}^n {}_{n+1} \mathrm{C} _k\ x^{n-k+1}y^k+y^{n+1}$$ $$=\sum_{k=0}^{n+1} {}_{n+1} \mathrm{C} _{k}\ x^{n+1-k}y^k$$ よって, $$(x+y)^{n+1}=\sum_{k=0}^{n+1} {}_{n+1} \mathrm{C} _k\ x^{n+1-k}y^{k}$$ が成り立つ.以上 (i),(ii) より示された.

他にも,つぎのように組合せ的に理解することもできます.

二項定理は非常に汎用性が高く実に様々な分野で応用されます.数学の別の定理を証明するために使われたり,数学の問題を解くために利用することもできます.

剰余

累乗数のあまりを求める問題に応用できる場合があります.

例題 $31^{30}$ を $900$ で割ったあまりを求めよ.

$$31^{30}=(30+1)^{30}={}_{30} \mathrm{C} _0 30^0+\underline{{}_{30} \mathrm{C} _{1} 30^1+ {}_{30} \mathrm{C} _{2} 30^2+\cdots +{}_{30} \mathrm{C} _{30} 30^{30}}$$ 下線部の各項はすべて $900$ の倍数です.したがって,$31^{30}$ を $900$ で割ったあまりは,${}_{30} \mathrm{C} _0 30^0=1$ となります.

不等式

不等式の証明に利用できる場合があります.

例題 $n$ を自然数とするとき,$3^n >n^2$ を示せ.

$n=1$ のとき,$3>1$ なので,成り立ちます. $n\ge 2$ とします.このとき, $$3^n=(1+2)^n=\sum_{k=0}^n {}_n \mathrm{C} _k 2^k > {}_n \mathrm{C} _2 2^2=2(n^2-n) \ge n^2$$ よって,自然数 $n$ に対して,$3^n >n^2$ が成り立ちます.

示すべき不等式の左辺と右辺は $n$ の指数関数と $n$ の多項式で,比較しにくい形になっています.そこで,二項定理を用いて,$n$ の指数関数を $n$ の多項式で表すことによって,多項式同士の評価に持ち込んでいるのです.

その他

サイト内でもよく二項定理を用いているので,ぜひ参考にしてみてください.
→フェルマーの小定理の証明
→包除原理の意味と証明
→整数係数多項式の一般論

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