ホーム >> 数と式 >> アーベルの総和公式

2つの数列の積和を一方の数列の部分和と,もう一方の数列の差分で表現する公式を紹介します.





アーベルの総和公式とは

アーベルの総和公式とは,積和に関する以下の等式です.これはかなりマニアックな公式で,数学オリンピックなどで稀に関連する問題が出題されています.覚えておくと,何かの役に立つかもしれません.

アーベルの総和公式: $n$ を正整数,$a_1,...,a_n,b_1,...,b_n$ を $2$ つの実数列とする.また,$S_k=a_1+\cdots+a_k$ とするとき,次の等式が成り立つ. $$\large \sum_{k=1}^n a_kb_k=S_nb_n+\sum_{k=1}^{n-1}S_k(b_k-b_{k+1})$$

具体例

・$n=2$ のとき
(左辺) $= a_1b_1+a_2b_2$
(右辺) $=(a_1+a_2)b_2+a_1(b_1-b_2)=a_1b_1+a_2b_2$
となって,確かに (左辺)=(右辺) が成り立っています.

・$n=3$ のとき
(左辺) $= a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3$
(右辺) $=(a_1+a_2+a_3)b_3+a_1(b_1-b_2)+(a_1+a_2)(b_2-b_3)=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3$
となって,確かに (左辺)=(右辺) が成り立っています.

表を用いた解釈

アーベルの総和公式の見た目はかなりいかついですが,表を用いることによって,その意味をより簡単に理解することができます.この節では,形式的な証明を与える代わりに,アーベルの総和公式の表による解釈を紹介します.

以下では簡単のため,$n=5$ の場合に限って説明します. さて,まずは以下のような表を考えます.
アーベルの総和公式
表の第一行には $a_1,...,a_5$ が並んでおり,第一列には $b_1,...,b_5$ が並んでいます.ここで,空いたマスに $+1$ または $-1$ を書き込むことで,一つの式を表すと解釈します.たとえば,下の表は $a_1b_1-a_1b_2-a_2b_2$ という式を表しています.(なにも書かれていないマスは $0$ と解釈します)
アーベルの総和公式

さて,アーベルの総和公式の左辺は, $$ \sum_{k=1}^5 a_kb_k=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3+a_4b_4+a_5b_5$$ という式だったので,これを表で表すと以下のようになります.
アーベルの総和公式
一方で,右辺第一項の $$S_5b_5$$ という式は, $$(a_1+a_2+a_3+a_4+a_5)b_5$$ であるから,これを表で表すと以下のようになります.
アーベルの総和公式
また,右辺第二項の $$\sum_{k=1}^{4}S_k(b_k-b_{k+1})$$ $$\sum_{k=1}^{4} (a_1+\cdots +a_k)(b_k-b_{k+1})$$ $$=\color{red}{\underline{\color{black}{a_1(b_1-b_2)}}}+\color{blue}{\underline{\color{black}{(a_1+a_2)(b_2-b_3)}}}+\color{green}{\underline{\color{black}{(a_1+a_2+a_3)(b_3-b_4)}}}+\color{orange}{\underline{\color{black}{(a_1+a_2+a_3+a_4)(b_4-b_5)}}}$$ という式を表で表すと以下のようになります.
アーベルの総和公式
ここで,$+1$ と $-1$ がひとつずつ現れるマスは打ち消しあって,結果的に次の表のようになります.
アーベルの総和公式
以上より,右辺第一項と右辺第二項の和は,見事に左辺の式と一致することが確認できます.
アーベルの総和公式

つまり,アーベルの総和公式は,対角成分の和を,足し方を変えることで別の表現を与えているということに他なりません.

練習問題

 $n$ を正整数とする.$2n$ 個の実数 $a_1,\cdots ,a_n;b_1,\cdots,b_n$ について,次の二つの命題は同値であることを示せ.
(1) $x_1\le x_2 \le \cdots \le x_n$ を満たす任意の $n$ 個の実数 $x_1,...,x_n$ に対して, $$a_1x_1+\cdots +a_nx_n \le b_1x_1+\cdots +b_nx_n$$ が成り立つ.
(2) $a_1+\cdots +a_n=b_1+\cdots+b_n$ かつ,任意の $k=1,2,...,n$ に対して,$a_1+\cdots +a_k \ge b_1+\cdots +b_k$ が成り立つ.

→solution

($1$) $\Rightarrow$ ($2$)
$x_1=x_2=\cdots = x_n=1$ に対して,$(1)$ 式が成り立つことから, $$a_1+\cdots +a_n\le b_1+\cdots +b_n$$ を得る.同様に,$x_1=x_2=\cdots = x_n=-1$ に対して,$(1)$ 式が成り立つことから, $$a_1+\cdots +a_n\ge b_1+\cdots +b_n$$ を得る.したがって, $$a_1+\cdots +a_n= b_1+\cdots +b_n$$ が成り立つ.

また,任意の $k\ (1\le k \le n)$ について,$x_1=\cdots =x_k=-1,x_{k+1}=\cdots =x_{n}=0$ に対して ($1$) 式が成り立つことから, $$a_1+\cdots +a_k\ge b_1+\cdots +b_k$$ を得る.

($2$) $\Rightarrow$ ($1$)
$A_k=a_1+\cdots +a_k,B_k=b_1+\cdots +b_k$ とおく.また,$x_1,...,x_n$ を $x_1\le x_2 \le \cdots \le x_n$ を満たす任意の実数とすると,アーベルの総和公式より, $$a_1x_1+\cdots +a_nx_n$$ $$=A_1(x_1-x_2)+\cdots A_{n-1}(x_{n-1}-x_n)+A_nx_n$$ $$\ge B_1(x_1-x_2)+\cdots B_{n-1}(x_{n-1}-x_n)+B_nx_n$$ $$b_1x_1+\cdots +b_nx_n$$ となる.

 $n$ を正整数とする.$2n$ 個の正の実数 $x_1,y_1,\cdots,x_n,y_n$ が以下の $2$ 条件を満たすとする.
(1) $x_1y_1 < x_2y_2 <\cdots < x_ny_n$
(2) $k=1,2,...,n$ に対して,$x_1+x_2+\cdots +x_k \ge y_1+y_2+\cdots +y_k$ が成り立つ.
このとき,次の不等式が成り立つことを示せ. $$\frac{1}{x_1}+\frac{1}{x_2}+\cdots \frac{1}{x_n} \le \frac{1}{y_1}+\frac{1}{y_2}+\cdots +\frac{1}{y_n}$$

→solution

(左辺)-(右辺) $$=\displaystyle \sum_{i=1}^n \frac{x_i-y_i}{x_iy_i}$$ $$=\frac{1}{x_ny_n}((x_1-y_1)+\cdots +(x_n-y_n))+\sum_{i=1}^{n-1}\left(\frac{1}{x_iy_i}-\frac{1}{x_{i+1}y_{i+1}}\right)((x_1-y_1)+\cdots +(x_i-y_i))$$ $$\ge 0$$

 (アーベルの不等式) $n$ を正整数,$a_1,...,a_n,b_1,...,b_n$ を $2$ つの実数列とする.ただし,$b_1\ge b_2 \ge \cdots \ge b_n \ge 0$ が成り立つとする.また,$S_k=a_1+\cdots +a_k,\displaystyle m=\min_{1\le k \le n} S_k,\displaystyle M=\max_{1\le k \le n} S_k$ とおくとき,次の不等式が成り立つことを示せ. $$mb_1 \le \sum_{i=1}^n a_ib_i \le Mb_1$$

→solution

アーベルの総和公式より, $$\sum_{k=1}^n a_kb_k=S_nb_n+\sum_{k=1}^{n-1}S_k(b_k-b_{k+1})$$ $m,M$ の定義から, $$mb_n+\sum_{k=1}^{n-1}m(b_k-b_{k+1})\le S_nb_n+\sum_{k=1}^{n-1}S_k(b_k-b_{k+1}) \le Mb_n+\sum_{k=1}^{n-1}M(b_k-b_{k+1})$$ したがって, $$mb_1\le \sum_{k=1}^n a_kb_k \le Mb_1$$