加比の理|思考力を鍛える数学

分数同士の大きさの比較を,図形的意味を考えることで直感的に理解する方法を紹介します.

いくつかの分数が与えられたとき,それらを組み合わせてできる新しい分数ともとの分数との大きさの関係に関する一連の公式群を加比の理といいます.たとえば,以下は最も基本的な公式です.

加比の理: $a,b,c,d$ を実数,$b,b+d \neq 0$ とするとき,次が成り立つ. $$\frac{a}{b}=\frac{c}{d}=k \Rightarrow \frac{a+c}{b+d}=k$$

これは実際,仮定より,$a=kb$,$c=kd$ と書けるので, $$\frac{a+c}{b+d}=\frac{kb+kd}{b+d}=\frac{k(b+d)}{b+d}=k$$ のようにしてわかります.

この公式は,一見当たり前で,公式と呼ぶに値しないのではないかと思われるかもしれません.また,以下の節でもいくつか公式が登場しますが,そのどれについても証明は非常に簡単です.この記事で重要なことは,個々の公式それ自身ではなく,加比の理すべてに通づる精神です.すなわち,分数を平面図形にプロットすれば,分数同士の大きさの比較を直感的に理解できるという事実が重要なのです.以下で詳しく説明します.

図形的意味

加比の理を図形的に理解してみましょう.まず,基本的な事実として,有理数 $\frac{a}{b}$ は $xy$ 平面において原点と $(a,b)$ を通る直線の傾きです.
では,先の公式について考えてみましょう.$\frac{a}{b}=\frac{c}{d}=k$ という条件は,$xy$ 平面において原点と $(a,b)$ を通る直線の傾きと,原点と $(c,d)$ を通る直線の傾きが等しいという意味です.言い換えると,$(0,0),(a,b),(c,d)$ が同一直線上にあるということです.

このとき,$(a+c,b+d)$ がこの直線上に存在することは明らかです.実際,たとえば,下図のように三角形の相似を考えれば自明です.

あるいは,直線の方程式 $sx+ty=0$ を考えて,この直線が,$(0,0),(a,b),(c,d)$ を通るとき,$(a+c,b+d)$ も通ることを示すこともできます. したがって,$\frac{a+c}{b+d}=k$ を得ます.

このように,加比の理は図形的に理解することができます.したがって,その図形的な理解の仕方さえ知っていれば,個々の公式は覚える必要はなく,いつでも簡単に導けるのです.

つぎは,先ほどの公式を一般化したものです.

加比の理 (一般化): $a_1,…,a_n,$ $b_1,…,b_n$ を実数,$b_1,…,b_n,b_1+\cdots +b_n \neq 0$ とするとき,次が成り立つ. $$\frac{a_1}{b_1}=\frac{a_2}{b_2}=\cdots =\frac{a_n}{b_n}=k \Rightarrow \frac{a_1+\cdots +a_n}{b_1+\cdots +b_n}=k$$

証明: 仮定より,$a_i=kb_i$ とおける ($1\le i \le n$). したがって, $$\frac{a_1+\cdots +a_n}{b_1+\cdots +b_n}=\frac{kb_1+\cdots +kb_n}{b_1+\cdots +b_n}=k$$ が成り立つ.

この公式の図形的意味は,$n$ 点 $P_1(a_1,b_1),…,P_n(a_n,b_n)$ が同一直線上にあるならば,$P(a_1+\cdots +a_n,b_1+\cdots +b_n)$ もそれと同じ直線上にある,ということです.

つぎは,不等式の場合を考えてみましょう.

加比の理 (不等式バージョン): $a,b,c,d$ を実数,$b,d,b+d\neq 0$ とするとき,次が成り立つ. $$\frac{a}{b} < \frac{c}{d} \Rightarrow \frac{a}{b} < \frac{a+c}{b+d} < \frac{c}{d}$$

仮定の図形的意味は,原点と $(a,b)$ を通る直線 $l_1$ の傾きは,原点と $(c,d)$ を通る直線 $l_2$ の傾きより小さい,ということです.
ここで,原点と $(a,b),(c,d),(a+c,b+d)$ は平行四辺形をなします.

したがって,原点と $(a+c,b+d)$ を通る直線の傾きは,$l_1$ の傾きより大きく,$l_2$ の傾きより小さいことは図より明らかです.

このように,不等式の場合も,図形的に考えれば大小関係はほとんど明らかです.

 $3$ つの実数 $x,y,z$ は $x+y+z\neq 0$ かつ,$\frac{x}{y+z}=\frac{y}{z+x}=\frac{z}{x+y}$ を満たす.このとき,$\frac{x}{y+z}$ の値を求めよ.

$$\frac{x}{y+z}=\frac{y}{z+x}=\frac{z}{x+y}$$ $$=\frac{x+y+z}{2(x+y+z)}=\frac{1}{2}$$

 $a,b,c$ を実数,$b,b+c \neq 0$ とする.このとき,$\frac{a}{b}$ と $\frac{a+c}{b+c}$ の大きさを比較せよ.

図形的意味を考えれば, $c = 0$ のときは,明らかに,$\frac{a}{b}=\frac{a+c}{b+c}$ $c > 0$ のとき $$\frac{a}{b} >1 \Rightarrow \frac{a}{b} > \frac{a+c}{b+c}$$ $$\frac{a}{b} \le 1 \Rightarrow \frac{a}{b} \le \frac{a+c}{b+c}$$ $c < 0$ のとき

$$\frac{a}{b} >1 \Rightarrow \frac{a}{b} < \frac{a+c}{b+c}$$ $$\frac{a}{b} \le 1 \Rightarrow \frac{a}{b} \ge \frac{a+c}{b+c}$$

 $\frac{a}{b}=\frac{c}{d}$,$k \neq \frac{a}{b}$ のとき,$\frac{a+kb}{a-kb}=\frac{c+kd}{c-kd}$ が成り立つことを示せ.

仮定は,$\frac{a}{c}=\frac{b}{d}$ であり,示すべき式は $$\frac{a+kb}{c+kd}=\frac{a-kd}{c-kd}$$ であるが,$2$ 点 $(a,b)$ と $(kb,kd)$ を考えるとこの式が成り立つことは自明. 上の証明は厳密ではありません.($c=0$ や $k=-\frac{c}{d}$ の場合は別に考える必要がある) しかし,直感的に理解するにはこれで十分.

厳密に示そうと思えば,元の式の両辺に $(a-kb)(c-kd)$ を掛ければ良い.

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