三角形の内角・外角の二等分線の性質は,中学数学で習う基本的で重要な性質です.それらの主張とその証明を紹介します.さらに,後半では発展的内容として,角の二等分線の長さについても紹介します.
角の二等分線の長さ
・ →円周角の定理とその逆
・ →方べきの定理の証明と例題
三角形のひとつの角の二等分線が与えられたとき,次の基本的な比の関係式が成り立ちます.
三角形の内角の二等分線と比: $△ ABC$ の $\angle A$ の内角の二等分線と辺 $BC$ との交点を $D$ とする.このとき,次の関係式が成り立つ.
$$\large AB:AC=BD:DC$$
この事実は二等辺三角形の性質と,平行線と比の性質を用いて証明することができます.
証明: 点 $C$ を通り直線 $AD$ に平行な直線と,$BA$ の延長との交点を $E$ とする.
$AD // EC$ なので,
$$\color{red}{\underline{\color{black}{\angle BAD}}}=\color{blue}{\underline{\color{black}{\angle AEC}}} (\text{同位角})$$
$$\color{green}{\underline{\color{black}{\angle DAC}}}=\color{orange}{\underline{\color{black}{\angle ACE}}} (\text{錯角})$$
仮定より,$\color{red}{\underline{\color{black}{\angle BAD}}}=\color{green}{\underline{\color{black}{\angle DAC}}}$ なので,
$$\color{blue}{\underline{\color{black}{\angle AEC}}}=\color{orange}{\underline{\color{black}{\angle ACE}}}$$
よって,$△ACE$ は $AE=AC \cdots ①$ である二等辺三角形となる.
ここで,$△BCE$ において,$AD // EC$ より,
$$BD:DC=BA:AE \cdots ②$$
である.①,②より,
$$AB:AC=BD:DC$$
が成り立つ.
内角の二等分線の性質と同様に,つぎの外角の二等分線の性質も基本的です.
三角形の外角の二等分線と比: $AB\neq AC$ である $△ ABC$ の $\angle A$ の外角の二等分線と辺 $BC$ の延長との交点を $D$ とする.このとき,次の関係式が成り立つ.
$$\large AB:AC=BD:DC$$
証明: 一般性を失わずに,$AB > AC$ としてよい.点 $C$ を通り直線 $AD$ に平行な直線と,辺 $BA$ との交点を $E$ とする.また,下図のように,線分 $BA$ の ($A$ 側の) 延長上の点を $F$ とする.
$AD // EC$ なので,
$$\color{red}{\underline{\color{black}{\angle FAD}}}=\color{blue}{\underline{\color{black}{\angle AEC}}} (\text{同位角})$$
$$\color{green}{\underline{\color{black}{\angle DAC}}}=\color{orange}{\underline{\color{black}{\angle ACE}}} (\text{錯角})$$
仮定より,$\color{red}{\underline{\color{black}{\angle FAD}}}=\color{green}{\underline{\color{black}{\angle DAC}}}$ なので,
$$\color{blue}{\underline{\color{black}{\angle AEC}}}=\color{orange}{\underline{\color{black}{\angle ACE}}}$$
よって,$△ACE$ は $AE=AC \cdots ①$ である二等辺三角形となる.
ここで,$△ABD$ において,$AD // EC$ より,
$$BD:DC=BA:AE \cdots ②$$
である.①,②より,
$$AB:AC=BD:DC$$
が成り立つ.
内角,外角の二等分線の性質は,その逆の命題も成り立ちます.
二等分線の性質の逆: $△ABC$ と直線 $BC$ 上の点 $D$ において,$AB:AC=BD:DC$ が成り立つならば,直線 $AD$ は $\angle A$ の二等分線である.
前節の二つの命題はおおざっぱに言えば,『三角形と角の二等分線が与えられたとき,ある辺の比の関係式が成り立つ.』というものでした.それに対して,上の命題は,『三角形とそのひとつの辺 (またはその延長) 上の点が与えられたとき,ある辺の比の関係式が成り立つならば,角の二等分線が隠れている.』という主張になります.
上の命題の証明は,前節のふたつの命題の証明を逆にたどれば示せます.
応用例として,別記事→アポロニウスの円で,この命題を用いています.
ここからはややマニアックな内容です.実は,角の二等分線の長さを,三角形の辺の長さなどで表すことができます.
内角の二等分線の長さ: $△ ABC$ の $\angle A$ の内角の二等分線と辺 $BC$ との交点を $D$ とする.このとき, $$\large AD^2=AB\times AC-BD\times DC$$ が成り立つ.
証明: $△ABC$ の外接円と,直線 $AD$ との交点のうち,$A$ でない方を $E$ とする.
仮定より,
$$\angle BAE=\angle CAD \cdots ①$$
円周角の定理より,
$$\angle BEA=\angle DCA \cdots ②$$
①,②より,$△ABE \sim △ADC$ である.よって,
$$AB:AE=AD:AC$$
したがって,
$$AB\cdot AC=AD\cdot AE=AD(AD+DE)=AD^2+AD\cdot AE$$
また,方べきの定理より,
$$AD\cdot AE=BD\cdot DC$$
よって,
$$AD^2+AD\cdot AE=AD^2+BD\cdot DC$$
以上より,
$$AD^2=AB\times AC-BD\times DC$$
が成り立つ.
外角の二等分線の長さ: $△ ABC$ の $\angle A$ の外角の二等分線と辺 $BC$ の延長との交点を $D$ とする.このとき, $$\large AD^2=BD\times DC-AB\times AC$$ が成り立つ.
証明: 一般性を失うことなく,$AB>AC$ としてよい.$△ABC$ の外接円と,直線 $AD$ との交点のうち,$A$ でない方を $E$ とする.また,下図のように,直線 $AB$ の延長上の点を $F$ とする.
仮定より,
$$\angle CAD=\angle DAF \cdots ①$$
また,
$$\angle DAF=\angle BAE (\text{対頂角}) \cdots ②$$
さらに,円に内接する四角形の性質より,
$$\angle BAE=\angle DAC \cdots ③$$
②,③より,$△ABE \sim △ADC$ である.よって,
$$AB:AE=AD:AC$$
したがって,
$$AB\cdot AC=AD\cdot AE=AD(DE-AD)=AD\cdot DE-AD^2$$
また,方べきの定理より,
$$AD\cdot DE=BD\cdot DC$$
よって,
$$AB\cdot AC=BD\cdot DC-AD^2$$
以上より,
$$AD^2=BD\times DC-AB\times AC$$
が成り立つ.