整数係数多項式の有理数解|思考力を鍛える数学

整数係数多項式の有理数解の候補を絞る方法を紹介します.

多項方程式の解を求める問題を考えてみましょう.多項方程式とは, $$a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0=0$$ で表される方程式のことです.($a_1,a_2,…,a_n$ はここでは実数とします.)

一次方程式や二次方程式は解の公式を使って簡単に解を求めることができます.

一方,三次方程式や四次方程式については,解の公式はあるのですが複雑すぎて実用的ではありません.さらに,五次以上の方程式には解の公式が存在しないことが知られています.このように $3$ 次以上の方程式については,一般に解をみつけることは困難です.

しかし,限られた条件のもとでは.解の候補を絞ることができます.

以下が今回の主役となる定理です.

整数係数多項式の有理数解: 整数係数多項式 $a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0$ の有理数解を $\frac{q}{p}$ とすると,$p$ は $a_n$ の約数であり,$q$ は $a_0$ の約数である.

まずは,用語の説明をしましょう.

整数係数多項式

係数がすべて整数であるような多項式を整数係数多項式と呼びます.

整数係数多項式であるもの ・$3x^3-2x+1$ ・$-100x^2-x+20$ 整数係数多項式でないもの ・$2x^3+x^2+\sqrt{2}x-1$ ・$\frac{1}{2}x^4+x^3+x^2+x+1$

有理数解

文字通り,有理数であるような解を有理数解とよびます. たとえば,方程式 $(x-2)(x-\sqrt{3})(x+\sqrt{3})=0$ の解は $$x=2,\pm \sqrt{3}$$ の $3$ つですが,このうち,有理数解は $2$ のみです.

また,方程式 $x^2-2x-1=0$ の解は $$x=1\pm \sqrt{5}$$ の $2$ つなので,有理数解はありません.このように,有理数解が存在しない方程式も当然存在します.

定理の主張

係数がすべて整数であるような多項式について,最高次の係数と定数項から,有理数解の候補を絞ることができる.というのが定理の主張です.証明は次節で行うとして,具体例を見てみましょう.

・$x^3-3x-2$
有理数解の候補は,$1,2,-1,-2$ の $4$ つです.これらを代入すると,$x=-1,2$ のとき,式の値が $0$ となるので,有理数解は,$x=-1,2$ です.因数定理を用いれば, $$x^3-x-2=(x+1)^2(x-2)$$ となることがわかります. ・$2x^3+x^2+6x+3$ 有理数解の候補は,$\pm 1,\pm 3,\pm \frac{1}{2},\pm \frac{3}{2}$ の $8$ つです.これらを代入すると,$x=-\frac{1}{2}$ が唯一の有理数解であることがわかります.因数定理を用いれば, $$2x^3+x^2+6x+3=(2x+1)(x^2+3)$$ となることがわかります.したがって,方程式の解は $x=-\frac{1}{2},\pm \sqrt{3}$ です. ・$x^4+3x^2+2$ 有理数解の候補は,$\pm 1,\pm 2$ の $4$ つですが,いずれを代入しても式の値は $0$ にはなりません.したがって,この方程式に有理数解は存在しません.

この式を因数分解すると,$x^4+3x^2+2=(x^2+1)(x^2+2)$ となるので,方程式の解は $x=\pm i,\pm \sqrt{2}$ となります.確かに有理数解が存在しないことがわかります.

定理からすぐにわかること

上の定理の特別な場合として,次のことがわかります.

系: 最高次の係数が $1$ または $-1$ である整数係数多項式が有理数解をもてば,それは整数解である.

有理数解を $\frac{q}{p}$ とすると,$p$ は最高次の約数なので,$p=\pm 1$ です.したがって,有理数解が存在すればそれは自動的に整数解となります.

定理の証明は.整数の性質の基本的なことを使うだけです.

証明: $a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0$ を整数係数多項式とする.方程式 $$a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0=0$$ が有理数解を持つとして.それを $x=\frac{q}{p}$ とおく.(ただし,$p,q$ は互いに素.)
これを方程式に代入すると, $$a_n\left(\frac{q}{p}\right)^n+a_{n-1}\left(\frac{q}{p}\right)^{n-1}+\cdots+a_1\left(\frac{q}{p}\right)+a_0=0$$ 両辺 $p^n$ 倍すると, $$a_nq^n+a_{n-1}q^{n-1}p+\cdots+a_1qp^{n-1}+a_0p^n=0  \cdots (*)$$ $(*)$ 式より, $$a_nq^n=-p(a_{n-1}q^{n-1}+\cdots+a_1qp^{n-2}+a_0p^{n-1})$$ これより,$p$ は $a_nq^n$ の約数となるが,$p,q$ は互いに素なので,$p$ は $a_n$ の約数.
再び,$(*)$ 式より, $$q(a_nq^{n-1}+a_{n-1}q^{n-2}p+\cdots+a_1p^{n-1})=-a_0p^n$$ これより,$q$ は $a_0p^n$ の約数となるが,$p,q$ は互いに素なので,$q$ は $a_0$ の約数.

 四次方程式 $x^4+x^3-x^2-2x-2$ に有理数解が存在すればそれを求めよ.

有理数解の候補は,$x=\pm 1,\pm2$ の $4$ つ.これらのいずれを代入しても式の値は $0$ にならないので,有理数解は存在しない.

 三次方程式 $3x^3-5x^2+5x-2=0$ に有理数解が存在すればそれを求めよ.

有理数解の候補は,$x=\pm 1,\pm 2,\pm \frac{1}{3},\pm \frac{2}{3}$ の $8$ つ.これらを代入すると, $x=\frac{2}{3}$ が唯一の有理数解であることがわかる.

無数にある解の候補を有限個に絞ることができる非常に強力な定理です.(その分,仮定も強いですが.)

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