ピタゴラス数|思考力を鍛える数学

三平方の定理を満たす自然数の組について考察します.

$a^2+b^2=c^2$ を満たす自然数の組 $(a,b,c)$ をピタゴラス数といいます.たとえば,$3^2+4^2=5^2,5^2+12^2=13^2$ なので,$(3,4,5),(5,12,13)$ などはピタゴラス数です.(と言っていますが,実際には自然数の組に対して定義されている言葉です.英語では Pythagorean triple です.)一方で,$(1,2,3),(2,3,4)$ などは $1^2+2^2\neq 3^2,2^2+3^2\neq 4^2$ なのでピタゴラス数ではありません. では,どのような数の組がピタゴラス数になるのでしょうか.実は,あとでみるようにピタゴラス数の満たすべき必要十分条件が知られています. ところで,簡単な観察によって,$t$ を自然数,$(a,b,c)$ をピタゴラス数とするとき,明らかに $(at,bt,ct)$ はまたピタゴラス数になります. $$a^2+b^2=c^2 \Rightarrow (at)^2+(bt)^2=(ct)^2$$ つまり,ピタゴラス数がひとつみつかったら,その自然数倍は必ずピタゴラス数です.

$a,b,c$ が互いに素であるようなピタゴラス数は原始ピタゴラス数と呼びます.たとえば,$(3,4,5),(8,15,17)$ などは原始ピタゴラス数です.また,$(9,12,15),(10,24,26)$ などはピタゴラス数ではあるが原始ピタゴラス数ではありません.

すべてのピタゴラス数は,原始ピタゴラス数であるか,ある原始ピタゴラス数の自然数倍です.

注意

一般に $3$ つの数 $(a,b,c)$ が互いに素であったとしても,$a,b,c$ のどのふたつも互いに素であるとは限りません.(たとえば,$(2,4,5)$ は互いに素であるが,$(2,4)$ は互いに素でない.)
しかし,つぎの補題が成り立ちます.この補題はすべての原始ピタゴラス数を決定する公式の証明中で用いています.

補題 自然数の組 $(a,b,c)$ が次の式を満たすとする. $$a^2+b^2=c^2$$ このとき,次の $2$ つの条件は同値 $(1)$ $a,b,c$ は互いに素 $(2)$ $a,b,c$ のどの $2$ つも互いに素

証明: $(2) \Rightarrow (1)$ は明らか.(対偶を考えよ.) $(1) \Rightarrow (2)$ を示す.$a^2+b^2=c^2$ を満たす自然数 $a,b,c$ が互いに素であると仮定する.$a,b,c$ のうち $2$ つ (たとえば $a,b$) が互いに素でないとする.このとき,$1$ より大きい素数 $d$ と自然数 $a’,b’$ を用いて,$a=da’,b=db’$ とかける.これより, $$c^2=d^2(a’^2+b’^2)$$ したがって,$d$ は $c^2$ の約数である.$d$ は素数なので,$d$ は $c$ の約数である.これは,$a,b,c$ が互いに素であることに矛盾する. 同様に,$b,c$ や $a,c$ が互いに素でないと仮定しても矛盾が導かれる.

以上より,$a,b,c$ のどの $2$ つも互いに素であることが従う.

原始ピタゴラス数の基本的な剰余の性質を紹介します.

原始ピタゴラス数の剰余の性質: $(a,b,c)$ を原始ピタゴラス数とする. (つまり,$a^2+b^2=c^2$,$a,b,c$ は互いに素)このとき,次が成り立つ. $(1)$ $a,b$ の一方は奇数で,もう一方は偶数であり,$c$ は奇数. $(2)$ $a,b$ の一方は $3$ の倍数. $(3)$ $a,b$ の一方は $4$ の倍数.

$(4)$ $a,b,c$ のうち,ひとつは $5$ の倍数であり,残りふたつは $5$ の倍数でない.

$(1)$ は特に重要で,次の節でも用います.$(2),(3),(4)$ はおまけ程度に紹介しているだけです.合同式に慣れている方はこれらの性質はただちに確かめることができるでしょう.

証明: $(1)$ $a,b$ がともに偶数であるとすると,$c$ は偶数でなければならないが,これは $(a,b,c)$ が原始ピタゴラス数であることに矛盾する.また,$a,b$ がともに奇数であるとすると,自然数 $x,y$ を用いて,$a=2x+1,b=2y+1$ とおける.これより, $$a^2+b^2=(2x+1)^2+(2y+1)^2=4(x^2+y^2+x+y)+2$$ つまり,$a^2+b^2$ は $4$ で割って $2$ 余る数になる.一方,$c$ は偶数で,したがって,$c^2$ は $4$ の倍数となる.これは $a^2+b^2=c^2$ に矛盾する. $(2)$ 一般に,$x$ が $3$ の倍数でないなら,$x^2$ は必ず $3$ で割って $1$ 余る数になる.したがって,$a,b$ がどちらも $3$ の倍数でないとすると,$a^2+b^2$ は $3$ で割って $2$ 余る数になるが,$c^2$ は $3$ の倍数か $3$ で割って $1$ 余る数であるからこれは矛盾. $(3)$ 一般に,$x$ が奇数なら,$x^2$ は必ず $8$ で割って $1$ 余る数になる.$(1)$ より,$a^2,b^2$ のいずれか一方 (仮に $b^2$ とする.)と,$c^2$ は $8$ で割って $1$ 余る数になる.したがって,$a^2$ は $8$ の倍数でなければならない.したがって,$a$ は $4$ の倍数でなければならない. $(4)$ 一般に,$x$ が $5$ の倍数でないなら,$x^2$ は必ず $5$ で割って $1$ または $4$ 余る数になる.$a,b,c$ のうち $5$ の倍数であるものの個数 $t$ は $0,1,2,3$ 個のいずれかである.$t=1$ であることを示せばよい. $t=3$ のとき.これは $(a,b,c)$ が原始ピタゴラス数であることに矛盾する. $t=2$ のとき.明らかに,$a,b,c$ のうち $2$ つが $5$ の倍数であるならば残りも $5$ の倍数になるので,$(a,b,c)$ が原始ピタゴラス数であることに矛盾する.

$t=0$ のとき.$a^2+b^2$ は $5$ で割って $2$ または $3$ 余る数になるが,$c^2$ は $5$ で割って $1$ または $4$ 余る数になるので矛盾.

本節がこの記事のメインになります.すべての原始ピタゴラス数は,ある $3$ つの条件を満たす自然数の組 $(m,n)$ によって,完全に表現することができます.

原始ピタゴラス数の公式: $(a,b,c)$ を原始ピタゴラス数とする. (つまり,$a^2+b^2=c^2$,$a,b,c$ は互いに素)このとき,次が成り立つ. 次の $3$ つの条件を満たす自然数 $m,n$ を用いて, $$\large (a,b,c)=(m^2-n^2,2mn,m^2+n^2)\ \text{または}\ (2mn,m^2-n^2,m^2+n^2)$$ とかける. $(1)$ $m,n$ は互いに素 $(2)$ $m > n$ $(3)$ $m,n$ の偶奇は異なる

逆に,この $3$ 条件を満たす自然数 $m,n$ に対して,$(m^2-n^2,2mn,m^2+n^2),(2mn,m^2-n^2,m^2+n^2)$ は原始ピタゴラス数である.

公式の意味

上の公式は,$3$ つの条件を満たす自然数の組 $m,n$ に対して,原始ピタゴラス数がちょうど $2$ つ ($(m^2-n^2,2mn,m^2+n^2)$ と $(2mn,m^2-n^2,m^2+n^2)$) 対応していることを主張しています. そして,上の $3$ つの条件を満たす自然数 $m,n$ をすべてもれなく列挙していくのは簡単です.

つまり,すべての原始ピタゴラス数をもれなく列挙していくことも可能だということを主張しています.別の言い方をすれば,すべての原始ピタゴラス数を(理論上は)完全に手に入れたのです!

証明

公式は,前節の原始ピタゴラス数の剰余の性質などを用いて証明することができます.

証明: 剰余の性質の $(1)$ より,$a,b$ のいずれか一方は偶数で,もう一方は奇数である.一般性を失うことなく,$a$ を奇数,$b$ を偶数とおける.上の $3$ 条件を満たす自然数 $m,n$ を用いて, $$a=m^2-n^2,b=2mn,c=m^2+n^2$$ と表せられることを示す. $a$ は奇数,$b$ は偶数なので,$c$ は奇数である.また, $$a^2=c^2-b^2=(c+b)(c-b)\cdots ①$$ と変形できるので,$c+b,c-b$ はともに奇数である.さらに $c+b,c-b$ は互いに素である. (実際,$c+b,c-b$ が互いに素でないとすると,$1$ より大きい共通因数 $d$ をもつ.$c+b,c-b$ はともに奇数であるから $d$ も奇数である.ところが,$2c=(c+b)+(c-b),2b=(c+b)-(c-b)$ であるから,$c,b$ も共通因数 $d$ をもつことになり,$(a,b,c)$ が原始ピタゴラス数であることに矛盾する.)

$c+b,c-b$ が互いに素であることと,式 ① より $c+b,c-b$ はともに平方数である.したがって,自然数 $s,t$ を用いて, $$c+b=s^2,c-b=t^2 $$ とおける.ここで, $$m=\frac{s+t}{2},n=\frac{s-t}{2}$$ とおくと,$m,n$ は自然数で,$m>n$ であり,$m,n$ は互いに素である.上式を $s,t$ について解くと, $$s=m+n,t=m-n$$ を得る.以上より, $$c=\frac{s^2+t^2}{2}=\frac{1}{2}\{(m+n)^2+(m-n)^2\}=m^2+n^2$$ $$b=\frac{s^2-t^2}{2}=\frac{1}{2}\{(m+n)^2-(m-n)^2\}=2mn$$ $$a^2=c^2-b^2=(m^2+n^2)^2-(2mn)^2=m^4-2m^2n^2+n^4=(m^2-n^2)^2$$ したがって,$a=m^2-n^2$ よって,$$a=m^2-n^2,b=2mn,c=m^2+n^2$$ とかける.

下記のサイトにピタゴラス数の最初のいくつかの値が載っています.
→ピタゴラス数

 自然数の組 $(a,b,c)$ が次の式を満たすとする. $$a^2+b^2=c^2$$ このとき,$a,b,c$ のうちに素数でないものが存在することを示せ.

剰余の性質の $(3)$ より,$a,b$ のうちいずれか一方が $4$ の倍数であることからわかる.

 直角三角形の $3$ 辺の長さがすべて整数のとき,面積は $2$ の整数倍であることを示せ.

直角三角形の斜辺を $c$,他の $2$ 辺を $a,b$ とおくと,直角三角形の面積 $S$ は $$S=\frac{1}{2}ab$$ である.剰余の性質の $(3)$ より,$a,b$ のうちいずれか一方が $4$ の倍数であることから $S$ は常に $2$ の倍数であることがわかる.

 直角三角形の $3$ 辺の長さがすべて整数であり,$3$ 辺の長さの和が $70$ であるとき,面積を求めよ.

すべての原始ピタゴラス数を決定する公式より,直角三角形の $3$ 辺は,ある自然数 $t$ と以下の $3$ つの条件を満たす自然数 $m,n$ を用いて,$(t(m^2-n^2),2mnt,t(m^2+n^2))$ とかける.ただし,斜辺が $t(m^2+n^2)$ である. $(1)$ $m,n$ は互いに素 $(2)$ $m > n$ $(3)$ $m,n$ の偶奇は異なる

問題の条件より, $$tm(m+n)=35 \cdots (4)$$ である.したがって,$t=1,5,7,35$ のいずれかであるが,$t=5,7,35$ のときは,上の $3$ 条件と $(4)$ 式を満たす自然数 $(m,n)$ が存在しないことが容易に確かめられる.したがって,$t=1$ であり,$(m,n)=(5,2)$ である.ゆえに $3$ 辺は,$(21,20,29)$ であり,面積は $\frac{1}{2}21\times 20=210$

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