原始多項式の定義と性質|思考力を鍛える数学

この記事の内容は本来は大学で学ぶものですが,高校数学までの知識で理解できます.原始多項式の定義と基本的な性質を紹介します.

原始多項式: 整数係数多項式 $f(x)=a_0+a_1x+\cdots +a_nx^n$ は, $a_0,a_1,…,a_n$ の最大公約数が $1$ のとき,$f(x)$ を原始多項式という.

整数係数多項式とは,すべての係数が整数であるような多項式のことです.整数係数多項式全体の集合を $\mathbb{Z}[x]$ という記号で表し,$f(x)$ が整数係数多項式であることを,$f(x)\in \mathbb{Z}[x]$ と書きます.

原始多項式の例

すべての係数の最大公約数が $1$ かどうかをチェックすればよいです. ・$3x^3+2x+4$  $(3,2,4)$ の最大公約数は $1$ ・$x^4+2$  $(1,2)$ の最大公約数は $1$ ・$-10x^2+6x-15$  $(-10,6,-15)$ の最大公約数は $1$

特に, $1$ や $-1$ の係数をもつ多項式は原始多項式です.

『多項式が有理数の範囲で因数分解できることと,整数の範囲で因数分解できることは同値である』という有用な命題があります.原始多項式はこの命題を証明するために使われる道具です.

原始多項式の最も重要な性質は,『ふたつの原始多項式の積はまた原始多項式である』というものです.

原始多項式の性質: $f(x),g(x) \in \mathbb{Z}[x]$ を原始多項式とする.このとき,$f(x)g(x) \in \mathbb{Z}[x]$ は原始多項式である.

たとえば,$2x^2-3x+4,\ 4x+3$ はそれぞれ原始多項式です.これらの積は $$(2x^2-3x+4)(4x+3)=8 x^3 – 6 x^2 + 7 x + 12$$ となりますが,$(8,-6,7,12)$ の最大公約数は $1$ なので,これは原始多項式です.

上の原始多項式の性質を証明してみましょう.証明のポイントは,『$(a_0,…,a_n)$ の最大公約数が $1$ $\Leftrightarrow$ 任意の素数 $p$ に対して,$a_0,…,a_n$ のうち $p$ で割り切れないものが少なくともひとつ存在する』という事実です.

証明: $f(x),g(x) \in \mathbb{Z}[x]$ をそれぞれ $n,m$ 次の原始多項式とする. $$f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n$$ $$g(x)=b_0+b_1x+b_2x^2+\cdots +b_mx^m$$ とおく.素数 $p$ を任意に選ぶ.$f(x),g(x)$ の $p$ で割り切れない最低次の項をそれぞれ $a_sx^s,\ b_tx^t$ とする.
$f(x)g(x)$ の $x^{s+t}$ の係数は, $$\sum_{i+j=s+t}a_ib_j  \cdots (*)$$ であるが,$i < s$ のとき,$a_i$ は $p$ で割り切れるから $a_ib_j$ も $p$ で割り切れる.$j < t$ のとき,$b_j$ は $p$ で割り切れるから $a_ib_j$ も $p$ で割り切れる.したがって,$(*)$ の各項は $a_sb_t$ のみ $p$ で割り切れず,その他の項は $p$ で割り切れる.言い換えると,ある整数 $k$ があって, $$\sum_{i+j=s+t}a_ib_j=a_sb_t+pk$$ と書ける.よって,$x^{s+t}$ の係数は $p$ で割り切れない.任意の素数 $p$ について,$f(x)g(x)$ には $p$ で割り切れない係数の項が存在するので,その最大公約数は $1$ である.つまり,$f(x)g(x)$ は原始多項式である.

Copied title and URL