整数の除法の原理|思考力を鍛える数学

自然数,整数における割り算の原理について解説します.

みなさんが当たり前のように使っている割り算について,あらためて踏み込んで考えてみましょう. 『$7$ つのりんごを $3$ 人に同じ数ずつ(できる限りあまりが少なくなるように)配ると,ひとり何個もらえて何個あまるでしょう.』 これは小学校の算数で習う割り算の典型的問題です.小学校ではこれを $$7÷3=2\ \text{あまり}\ 1$$ と計算し,ひとり $2$ 個もらえて $1$ 個あまる,という風に解いたと思います.

さて,上の数式は足し算と掛け算を用いて次のように表すことができます. $$7=2\times 3+1$$ ここで少し視点を変えて, $$7=\square\times 3+\triangle$$ を満たすような $\square$ と $\triangle$ にあてはまる自然数を考えてみると, $7=1\times 3+4$ もあてはまることがわかります.これは元の問題文の意味に変換すると,$7$ つのりんごを $3$ 人にそれぞれ $1$ 個ずつ配ると $4$ 個余るということを意味しています.さて,割り算の問題では暗黙のうちに余りができる限り少なくなるようにすることが要請されています.つまり,元の問題は, $$7=\square\times 3+\triangle$$ かつ $\triangle$ ができるだけ小さいという条件のもとで,$\square$ と $\triangle$ にあてはまる自然数を探しなさい,という問題に変換されます.この条件のもとで,$7=2\times 3+1$ が唯一の答えとなるわけです.

さて,いままでの議論は $7$ と $3$ に限らず,一般の自然数 $a,b$ に対しても成り立ちます.これが自然数の除法の原理と呼ばれるものです.

自然数の除法の原理: $a,b$ を自然数とする.このとき, $$\large a=bq+r,\ \ \ 0\le r < b$$ を満たす自然数 $q,r$ がただ一組定まる.

上の等式において $a$ を割られる数,$b$ を割る数,$q$ を商,$r$ を余りと言います.つまり,自然数の除法の原理は,割られる数と割る数のペアを一組決めると,商と余りのペアがただひと組決定するということを述べています.さきの話で,『$r$ ができるだけ小さい』としていた部分が $0\le r < b$ という不等式でおきかえられていますがこれらは同じことです.この原理によって,割り算の答えが必ず存在し,さらにただひとつであることが保証されます.

実は,除法の原理は自然数だけでなく整数に対しても同様に成り立ちます.

整数の除法の原理: $a$ を整数,$b$ を $0$ でない整数とする.このとき, $$\large a=bq+r,\ \ \ 0\le r < |b|$$ を満たす整数 $q,r$ がただ一組定まる.

数学では $0$ で割ることは考えないので,$b$ は $0$ でない整数としています.また,$b$ が負の数であるかもしれないので,$r$ の範囲が $0\le r < |b|$ となっていることに注意してください.また,余りの範囲を $-b \le r < b$ としてしまうと,一意性は成り立たなくなります.実際, $-7=(-3)\times(3)+2,\ -7=(-3)\times(2)-1$ のように $2$ 種類の表し方ができてしまいます.したがって,余りは $0$ 以上 $|b|$ 以下の整数とします.

・$-8=3\times(-3)+1$ ・$-7=(-3)\times(3)+2$ ・$-2021=(-3)\times(674)+1$

整数の除法の原理を証明してみましょう.あまりにも基本的な性質なので原理と呼ばれていますが,数学的命題ですので,当然きちんと証明することができます.

証明: 存在性
$b>0$ とする.$b$ に整数をかけたものを小さい順にならべると, $$\cdots, -3b,-2b,-b,0,b,2b,3b,\cdots$$ となる.$b>0$ なのでこれらはすべて相異なる整数である.したがって,任意の整数 $a$ に対して,ある整数 $q$ が存在して, $$qb\le a < (q+1)b$$ とかける.したがって, $$0\le a-bq < b $$ となる.よって,$r=a-bq$ とおくと, $$ a=bq+r,\ \ \ 0\le r < b$$ となるので,確かに条件を満たす $q,b$ が存在する. $b
一意性
$(q,b)$ とは異なる整数の組 $(q’,b’)$ であって, $a=bq’+r’,\ \ \ 0\le r’ < b$ を満たすものが存在したとする.$q=q’$ ならば $r=r’$ なので,$q\neq q’$ である.一般性を失うことなく $q>q’$ としてよい. $$bq+r=bq’+r’$$ であるから, $r’-r=b(q-q’)\ge b$ したがって,$r’-r\ge b$ である.ところが,$0\le r,r’ < b$ なので,$-b< r’-r < b$ であり,これらは矛盾. したがって, $$ a=bq+r,\ \ \ 0\le r < b$$ を満たす整数の組 $(q,r)$ はただ一組のみ存在する.

除法の原理は自然数,整数だけにとどまらず整式やガウス整数などについても成り立ちます.より一般に,除法の原理はユークリッド環の定義に明示的に現れます.

Copied title and URL