方程式と恒等式の定義は次のようなものです.
方程式:変数がある値のときに成立する等式
恒等式:変数がどのような値でも成立する等式 ここで,等式とは等号『=』で結ばれた数式のことです.等式が方程式であるのか,それとも恒等式であるのか,その違いを見分けられるようになりましょう.まずはそれぞれの例を見ていきます.以下では変数はすべて実数値をとるとします.
方程式の例 ・$2$ 次方程式: $x^2-4x+3=0$ この $2$ 次方程式は $x=1,3$ のときのみ成り立ちますが,それ以外の値のときは等号が成立しません.したがって,この等式は方程式です. ・直線の式: $y=2x-2$ この式は $(x,y)=(k,2k-2)$ のときのみ成り立ちますが,それ以外のときは等号が成立しません. 同様に,円や楕円,双曲線などの式もすべて方程式です.
恒等式の例
・数式の式変形 $$(x-y)^2+4xy=(x+y)^2$$ ・因数分解・展開 $$x^4+4=(x^2+2x+2)(x^2-2x+2)$$ ・三角関数の相互法則 $$\sin^2x+\cos^2x=1, \tan x=\frac{\sin x}{\cos x}$$ ・オイラーの公式
$$e^{i\pi}+1=0$$
等式のなかに,文字が複数あるとき,ある特定の文字についてのみ恒等式となっているという問題があります.まずは典型的な問題を見てみましょう.
問 つぎの等式が $x$ についての恒等式となるように,定数 $a,b,c$ の値を定めよ. $$x^2+2x-1=(x-1)(ax+b)+c$$
これはつまり,$x$ にどのような値を入れても式が成り立つように,$a,b,c$ を定めてくださいという意味です.どのような値を入れても成り立つのですから,$x$ にたとえば $0$ や $1,-1$ などを代入すれば $(a,b,c)=(1,3,2)$ と求まります.
初等数学の問題の多くが,方程式をたててそれを解くことによって解決します.文章問題や図形問題において,自分で文字を設定し,方程式をたててそれを解かなければならないとき,しばしば次のような現象に陥ることがあります.
方程式をたてたつもりが恒等式になってしまった!! 方程式は解くことができますが,恒等式を解くなどということはありません.たてた等式が恒等式になり,困り果ててしまった経験が一度はあるかと思います.これはどういうことなのでしょうか.
方程式をたてたつもりが,恒等式になってしまうとはつまり,使っていない条件があるのです.ある特定の値のときに成り立つ式をたてたつもりが,すべての値で成り立つ式になっていたということは,変数を束縛する条件が足りず,自由に動くことができるということです.