等差数列と並んで基本的な数列である等比数列について解説します.等比数列は様々な場面で姿を表すそれなりに重要な数列です.
数列 $$3,6,12,24,48,96,192,384,\cdots$$ は初項 $3$ に一定の数 $2$ を次々にかけていった数列です.
一般に,数列 $\{a_n\}$ において,各項に一定の数 $r$ をかけると次の項が得られるとき,この数列を等比数列といいます.
このとき,一定の数 $r$ を数列 $\{a_n\}$ の公比といいます. 等比数列 $\{a_n\}$ ではすべての自然数 $n$ について, $$\frac{a_{n+1}}{a_{n}}=r$$ が成り立ちます.これは,数列が等比数列であることの数式による表現になっています.隣合う $2$ つの項の比は常に $r$ で一定という意味です.
等比数列の例
・複利法によって利子が計算される場合,元金の合計は等比数列になります.
$Example$ 元金が $10000$ 円,年利 $5\%$,$1$ 年ごとの複利で計算すると,$1$ 年後には元金の合計は,$10000\times 1.05=10500$ 円になり,$2$ 年後には元金の合計は,$10500\times 1.05=10000\times(1.05)^2=11025$ 円になります.以下同様に,$n$ 年度後 ($n=1,2,3,…$) の元金の合計を $a_n$ とすると,数列 $\{a_n\}$ は初項 $10500$,公比 $1.05$ の等比数列です.
・独立な試行を繰り返す場合,その確率が等比数列をなすことがあります.
$Example$ 偏りのないコインを $n$ 回投げて,$n$ 回目にはじめて表がでる確率は, $$\left( \frac{1}{2}\right)^n$$ です.したがって,$n$ 回目にはじめて表がでる確率を $a_n$ とすると,数列 $\{a_n\}$ は初項 $\frac{1}{2}$,公比 $\frac{1}{2}$ の等比数列です.
・再帰的な手続きで得られる図形の面積が等比数列をなすことがあります.
$Example$ 一辺の長さが $1$ の正三角形に内接する円 $O_1$ の面積は $\frac{\pi}{12}$ です.この円 $O_1$ に外接し,同じ正三角形に内接する円 $O_2$ の面積は $O_1$ の面積の $\frac{1}{9}$ 倍になります.円 $O_2$ に外接し,同じ正三角形に内接する円 $O_3$ の面積は $O_2$ の面積の $\frac{1}{9}$ 倍になります.以下同様に,円 $O_n$ に外接し,正三角形に内接する円 $O_{n+1}$ の面積は $O_n$ の $\frac{1}{9}$ 倍です. したがって,円 $O_n$ の面積を $a_n$ とすると ,数列 $\{a_n \}$ は,初項 $\frac{\pi}{12}$,公比 $\frac{1}{9}$ の等比数列になります.
等比数列は一般項が $n$ の式で表せる数少ない数列のうちのひとつです.
初項が $a$,公比が $r$ である数列 $\{a_n\}$ の各項は順に, $$a_1=a, a_2=ar, a_3=ar^2, a_4=ar^3, a_5=ar^4,\cdots$$ となります.一般に次のことが成り立ちます.
等比数列の一般項: 初項 $a$,公比 $r$ の等比数列 $\{a_n\}$ の一般項は $$\large a_n=ar^{n-1}$$ で表せる.
ここで,重要なことは,等比数列の一般項が $$(定数)\times(定数)^{(n の一次式)}$$ の形になっていることです.逆に,一般項が $(定数)\times(定数)^{(n の一次式)} $ である数列は等比数列です.実際,ある数列 $\{b_n\}$ の一般項が,ある定数 $k,s,t,l$ を用いて,$b_n=k\times s^{tn+l}$ と書けたとすると, $$b_n=ks^ls^{tn}=ks^{t+l}(s^t)^{n-1}$$ なので,数列 $\{b_n\}$ は初項 $ks^{t+l}$,公比 $s^t$ の等比数列です.
つまり,ある数列があって,その一般項が $(定数)\times(定数)^{(n の一次式)}$ であることが導けた場合,その数列は等比数列であることがわかり,さらにこれを式変形して $$(定数)\times(定数)^{n-1}$$ の形にすれば,その初項と公比がわかります.
初項 $a$ ,公比 $r$,項数 $n$ の等比数列 の和 $S_n$ を考えてみましょう.公比 $r$ が $1$ のときと,それ以外の場合を分けて考えます.
公比 $r=1$ のとき
この場合は簡単です.初項 $a$ ,公比 $1$,項数 $n$ の数列を書き並べると, $$a,a,a,\cdots,a,a$$ という具合に,$a$ が $n$ 個並びます.したがってこれら $n$ 個の項の和が $S_n$ なので,$S_n=an$ です.
公比 $r \neq 1$ のとき
このとき,初項 $a$ ,公比 $r$,項数 $n$ の等比数列を書き並べると, $$a,ar,ar^2,\cdots,ar^{n-2},ar^{n-1}$$ となります.これら $n$ 個の数をすべて足したものが $S_n$ です.いま,この数列のそれぞれの項に $r$ をかけたものを考えます. $$ar,ar^2,ar^3,\cdots,ar^{n-1},ar^{n}$$ これらをすべて足したものは $rS_n$ です.ここで,これらふたつの数列を縦に引きます.このとき,引かれる方の数列をひとつ右にずらしてひくと, \begin{array}{ccccccc} &a&ar&ar^2&\cdots&ar^{n-2}&ar^{n-1} \\ -&&ar&ar^2&\cdots&ar^{n-2}&ar^{n-1}&ar^{n} \\ \hline &a&0&0&\cdots&0&0&-ar^n \\ \end{array} という具合に,最初と最後以外の項がすべて $0$ となります.これら $n$ 個の項の和は $S_n-rS_n$ に等しいので, $$S_n-rS_n =a-ar^n $$ という等式が成り立ちます.$r \neq 1$ なので,両辺を $r-1$ で割ることができて, $$S_n=\frac{a(1-r^n)}{1-r}$$ となります. したがって次のことがわかります.
等比数列の和の公式: 初項 $a$,公比 $r$ ,項数 $n$ の等比数列の和を $S_n$ とすると, $$\large S_n=an (r=1 のとき)$$ $$\large S_n=\frac{a(1-r^n)}{1-r} (r \neq 1 のとき) $$ が成り立つ.
この公式を導いた方法,つまり,もとの数列とその数列を $r$ 倍して並べたものを縦に引くというアイデアは等比数列に限らず,他の数列の和を求める際にも使われます.
$Example$ ・初項 $1$,公比 $3$,項数 $5$ の等比数列の和は $$\frac{1-3^5}{1-3}=\frac{242}{2}=121$$ ・初項 $4$,公比 $-2$,項数 $6$ の等比数列の和は $$\frac{4(1-(-2)^6)}{1-(-2)}=\frac{4\times (-63)}{3}=-84$$ ・初項 $-3$,公比 $1$,項数 $10$ の等比数列の和は $$(-3)\times 10=-30$$