集合の相等の証明|思考力を鍛える数学

$2$ つの集合 $X,Y$ が等しいことを示すための基本的な考え方を紹介します.

$X,Y$ を集合とします.$X=Y$ とは 『$X\subseteq Y$ かつ $X\supseteq Y$』 のことです.つまり,$X$ のすべての要素 (元) が $Y$ に属し,さらに $Y$ のすべての要素が $X$ に属すときに,$X$ と $Y$ は等しいといいます.

したがって,何か $2$ つの一見異なる集合 $X,Y$ が与えられたとき,$X=Y$ であることを示すためには,$X\subseteq Y$ と $X\supseteq Y$ をそれぞれ示せばよいです.

注意

・当サイトでは,$A$ が $B$ の部分集合であることを $A\subseteq B$ で表し,$A$ が $B$ の部分集合であることを $A\subsetneq B$ で表します.$A\subset B$ という記法は,単に部分集合を意味するのか真部分集合を意味するのか流儀によって異なるので,使わないことにします.

・当然,$X=Y$ を示す方法は,$X\subseteq Y$ と $X\supseteq Y$ を示す方法以外にも考えられます.たとえば,$X$ を同値変形していって,結果的に $Y$ と一致させる方法や,全く別の集合 $Z$ があって,$X=Z$ かつ $Y=Z$ を示すことで間接的に $X=Y$ を示す方法などが考えられます.ただし,$X\subseteq Y$ と $X\supseteq Y$ をともに示して $X=Y$ を示す方法は最も基本的です.

典型的な具体例を見てみましょう.

 $A=\{2x+7y\ |\ x,y \ \text{は整数} \}$,$B=\{3x-5y\ |\ x,y \ \text{は整数} \}$ とする.$A=B$ を示せ.

まず,$A\subseteq B$ を示します. $a\in A$ とします.このとき,ある整数 $x_0,y_0$ があって,$a=2x_0+7y_0$ とかけます. $$a=2x_0+7y_0=(3\times 4-2\times5)x_0+(3\times 4-5)y_0=3(4x_0+4y_0)-5(2x_0+y_0)$$ と変形できます.ここで,$4x_0+4y_0,2x_0+y_0$ はともに整数なので,$a\in B$ です.したがって,$A\subseteq B$ です. $A\supseteq B$ も同様に示します. $b\in B$ とします.このとき,ある整数 $x_1,y_1$ があって,$b=3x_1-5y_1$ とかけます. $$b=3x_1-5y_1=(2\times 5-7)x_1+(2-7)y_1=2(5x_1+y_1)+7(-x_1-y_1)$$ と変形できます.ここで,$5x_1+y_1,-x_1-y_1$ はともに整数なので,$b\in A$ です.したがって,$A\supseteq B$ です.

以上より,$A=B$ が示されました.

注意

$A\subseteq B$ を示すためには,$A$ に属するすべての要素が $B$ に属することを示せばよいです.上の証明中の『$a\in A$ とする』という表現は,$A$ の要素から任意にひとつの要素をとってきてそれを $a$ とおく,という意味です.

つぎの例は少し難しいです.

 自然数を要素とする空集合でない集合 $X$ が次の $2$ 条件を満たしているとする. $(1)$ $m,n$ が $X$ の要素ならば,$m+n$ は $X$ の要素である. $(2)$ $m,n$ が $X$ の要素で,$m>n$ ならば,$m-n$ は $X$ の要素である.

このとき,$X$ の最小の要素を $d$ とおくと, $$X=\{kd\ |\ k \ \text{は自然数}\}$$ が成り立つことを示せ.

$Y=\{kd\ |\ k \ \text{は自然数}\}$ とおいて,$X=Y$ を示します. まず,$Y\subseteq X$ を示します. $y \in Y$ とします.$Y$ の定義から,ある自然数 $k_0$ があって,$y=k_0d$ とかけます.ここで,$d$ は $X$ の要素なので,条件 $(1)$ より,$d+d=2d\in X$ であることがわかります.さらに,$d,2d$ が $X$ の要素なので,$d+2d=3d \in X$ であることもわかります.以下,帰納的に条件 $(1)$ を繰り返し用いれば,$d$ の倍数はすべて $X$ の要素となります.したがって,$y=k_0d\in X$ が従うので,$Y \subseteq X$ が成り立ちます. つぎに,$Y \supseteq X$ を示します. $x \in X$ とします.$x$ を $d$ で割ると,$x=qd+r (0\le r < d)$ とかけます. ($q,r$ は非負整数) この式より,$r=x-qd$ が得られます.

すると,前で確認したように $d\in X$ と条件 $(1)$ より,$qd\in X$ です.さらに,$x\in X$ でもあったので,もし $r>0$ とすると,条件 $(2)$ より,$x-qd=r\in X$ となります.ところが $r$ は $d$ より小さいので,これは $d$ の最小性に矛盾します.したがって,$r=0$ です.これより,$x=qd \in Y$ となるので,$Y \supseteq X$ が成り立ちます.

$X$ と $Y$ が等しいとは,$X\subseteq Y$ かつ $X\supseteq Y$ が成り立つことでした.これを否定すると,『$X\nsubseteq Y$ または $X\nsupseteq Y$』となります.したがって,$X$ と $Y$ が等しくない,すなわち $X\neq Y$ であることを示すには,$X\nsubseteq Y$ または $X\nsupseteq Y$ が成り立つことを示せばよいです.
つまり,$X$ の要素であって $Y$ の要素でないものをひとつ見つけるか,$Y$ の要素であって $X$ の要素でないものをひとつ見つけるかのどちらかを行えばよいということです.

 $A=\{2x+6y\ |\ x,y \text{は整数} \}$,$B=\{3x-5y\ |\ x,y \text{は整数} \}$ とする.$A\neq B$ を示せ

たとえば,$1\in B$ で,$1\notin A$ であることがすぐに確認できます.したがって,$A\neq B$ です.

 $A=\{n^2+n\ |\ n \text{は整数}\}$,$B=\{2n\ |\ n \text{は整数}\}$ とするとき,$A\neq B$ を示せ.

たとえば,$4\in B$ で,$4 \notin A$ であることがすぐに確認できます.($2$ 次方程式 $x^2+x-4=0$ は整数解をもちません) したがって,$A\neq B$ です.

 $A=\{2n+1\ |\ n\in \text{は整数}\},B=\{3n+2\ |\ n \text{は整数}\},C=\{6n+5\ |\ n\in \text{は整数}\}$ とおくとき,$A\cap B=C$ を示せ.

$A\cap B\subseteq C$ を示す. $x\in A\cap B$ とすると,ある整数 $m,n$ があって,$x=2m+1=3n+2$ とかける.すると, $x-5=2(m-2)=3(n-1)$ となり,$x-5$ は $2$ と $3$ の公倍数であるから $6$ の倍数となり,$x-5=6k$ とかける ($k$ は整数). よって,$x=6k+5 \in C$ となり,$A\cap B\subseteq C$ が示される. $A\cap B\supseteq C$ を示す.

$y\in C$ とすると,$y=6s+5$ とかける ($s$ は整数).すると, $y=2(3s+2)+1$ なので,$y\in A$ となり,$y=3(2s+1)+2$ なので,$y\in B$ となるから,$y\in A\cap B$ であり,$A\cap B\supseteq C$ が示される.

 $\mathbb{R}$ を実数全体の集合とする.$A=\{\frac{1}{x^2+1}\ |\ x\in \mathbb{R}\}$,$B=\{y\in \mathbb{R}\ |\ 0< y \le 1\}$ とするとき,$A=B$ を示せ.

まず,$A\subseteq B$ を示す. $a\in A$ とする.ある実数 $x$ があって,$a=\frac{1}{x^2+1}$ とかける. $x^2+1 >0$ なので,$a>0$ は明らか.また,$x^2+1 >1$ より,$a=\frac{1}{x^2+1} \le 1$ .したがって,$0< a\le 1$ となるので,$a\in B$ .よって,$A\subseteq B$ が従う. つぎに,$A\supseteq B$ を示す. $b\in B$ とする.$0 < b \le 1$ であるから,$\frac{1}{b}-1 \ge 0$ ,すなわち $\sqrt{\frac{1}{b}-1}$ は実数であり, $$b=\frac{1}{\left(\sqrt{\frac{1}{b}-1}\right)^2+1}  \cdots (*)$$ とかける.したがって,$b\in A$ となり,$A\supseteq B$ が従う. 以上より,$A=B$ が示された. (注) $(*)$ 式の導出はつぎのように考えれば自然に導けます.

まず,$b \in A$ が示したいので,何か実数 $x$ があって,$b=\frac{1}{x^2+1}$ と書きたいです.そこで,この式を $x$ について解くと,$x=\pm \sqrt{\frac{1}{b}-1}$ が得られるというわけです.

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