ホーム >> 数と式 >> $\pi$ が無理数であることの証明

$\pi$ が無理数であることをほぼ高校数学の範囲で証明します.



⇨予備知識

本記事で紹介する $\pi$ が無理数であることの証明は,高校数学で学ぶ様々な知識を使います.
背理法
二項定理
・合成関数の微分
・微積分学の基本定理
平方完成
・はさみうちの原理
・ 定数 $p$ に対して,$\lim_{n\rightarrow \infty} \frac{p^n}{n!} = 0$.



$\pi$ が無理数であること

円周率 $\pi$ とは,円の直径に対する円周の長さの比率 ((円周の長さ)÷(円の直径の長さ)) のことであり,その値は $\pi= 3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288... $ と続きます. 円周率 $\pi$ が無理数であるという事実はよく知られています.しかし,その証明を知っている人はあまり多くないのではないでしょうか.この記事では円周率 $\pi$ が無理数であるという事実を初等的に (微積分学の基本定理は用いますが) 証明します.

$\pi$ が無理数であることの証明は,様々な人が様々な証明を提案しています.詳しくは →円周率の無理性の証明をご覧ください.この記事ではその中でも比較的簡潔で初等的なニーベン(Niven)による証明を紹介します.ニーベンの原論文はこちらです.本記事はニーベンによるたった $1$ ページの簡潔な証明をかなり噛み砕いて紹介するので,人によってはややくどい印象を受けるかもしれませんが,ご了承ください. (原論文を直接読んで理解できる方はこの記事を読む必要はないのです!)

ニーベンによる初等的な証明

多くの無理数性の証明と同様に,証明は背理法を用います.つまり,$\pi=\frac{a}{b}$ ($a,b$ は整数, $b\neq 0$) とかけるとして矛盾を導きます.

さて,ニーベンの証明における登場人物は次のふたつの多項式です.以下では,自然数 $n$ をひとつ固定して議論します. $$f(x) = \frac{x^n(a-bx)^n}{n!}$$ $$F(x) = f(x)-f^{(2)}(x)+f^{(4)}(x)-\cdots + (-1)^{n}f^{(2n)}(x)$$ $x$ の多項式 $x^n, (a-bx)^n$ の次数はともに $n$ なので,$f(x)$ は次数 $2n$ の多項式です.
$f^{(i)}(x)$ は関数 $f(x)$ の $i$ 回微分を表しています. つまり,$F(x)$ は $f(x)$ から $f(x)$ の $2$ 回微分をひいて, $f(x)$ の $4$ 回微分をたして,$f(x)$ の $6$ 回微分をひいて,...という風にしてつくられた多項式です.

なぜ,いきなりこれらの関数を考えるのかは説明しようがありませんが,とにかく巧妙に仕組まれたこれらふたつの関数を用います.証明のために,まず次の補題 $1,2,3$ を示します.

補題1: $F(0),F(\pi)$ は整数である.また,$F(0) = F(\pi)$ が成り立つ.

補題1の証明: はじめに,$F(0)$ が整数であることを示す.そのためにまず,任意の自然数 $k~(1\le k \le 2n)$ に対して,$f^{(k)}(0)$ が整数になることを示す.(つまり,$f(x)$ を $k$ 回微分した関数に $x=0$ を代入した値)

(i) $1\le k < n$ のとき
$f(x)$ の各項の次数はすべて $n$ 以上であるから,$f^{(k)}(x)$ の各項の次数はすべて $1$ 以上である.したがって,$f^{(k)}(0)= 0$ となる.

(ii) $n\le k \le 2n$ のとき
$f^{(k)}(x)$ において,次数が $1$ 以上の項については,$x=0$ を代入すると $0$ になる.したがって,$f^{(k)}(x)$ の定数項が整数であることを示せば良い.$k$ 回微分すると,各 (次数 $k$ 以上の) 単項式は次数が $k$ 下がることに注意すると,$f^{(k)}(x)$ の定数項は,$f(x)$ の $k$ 次の項を $k$ 回微分したものとなる.ここで, $(a-bx)^n$ を展開すると, $f(x)= x^n \times ((\text{定数項})+($1$ \text{次の項})+($2$ \text{次の項})+\cdots +($n$ \text{次の項}))$ という形になっている.したがって,$f(x)$ の $k$ 次の項は,$(a-bx)^n$ の $k-n$ 次の項に,$x^n$ をかけた項を $k$ 回微分したものとなる.ここで二項定理を用いると,$(a-bx)^n$ の $k-n$ 次の項は, $${}_{n} \mathrm{C} _{k-n} \cdot a^{2n-k}\cdot (-bx)^{k-n}$$ となる.したがって,$f(x)$ の $k$ 次の項は, $$\frac{{}_{n} \mathrm{C} _{k-n} \cdot a^{2n-k}\cdot (-b)^{k-n} \cdot x^{k}}{n!}$$ となる.よって,$f^{(k)}(x)$ の定数項は, $$\frac{{}_{n} \mathrm{C} _{k-n} \cdot a^{2n-k}\cdot (-b)^{k-n} \cdot k!}{n!}$$ となる.$n\le k \le 2n$ なので,$\frac{k!}{n!}$ は整数であり,${}_{n} \mathrm{C} _{k-n}, a^{2n-k}, (-b)^{k-n}$ もすべて整数であるから,$f^{(k)}(x)$ の定数項は整数である.よって,$f^{(k)}(0)$ も整数である.

以上 (i),(ii) より,任意の自然数 $k~(1\le k \le 2n)$ に対して,$f^{(k)}(0)$ が整数になることが示された.よって,$F(0)$ は整数である.

ところで,$\pi=\frac{a}{b}$ であるから,$f(\pi-x)=f(x)$ が成り立つので,$F(\pi-x)=F(x)$ が成り立つ.したがって,$F(0) = F(\pi)$ が成り立つ.よって,$F(\pi)$ も整数である.

補題2: $\frac{d}{dx}\{F'(x) \sin x-F(x)\cos x\} = f(x)\sin x$.

補題2の証明: 合成関数の微分を用いると, $$\frac{d}{dx}\{F'(x) \sin x-F(x)\cos x\}$$ $$=F''(x)\sin x +F'(x)\cos x -F'(x)\cos x +F(x)\sin x$$ $$=F''(x)\sin x+F(x)\sin x$$ $$=(F''(x)+F(x))\sin x$$ となる.ところで,$F(x),F''(x)$ はそれぞれ $$F''(x)= f^{(2)}(x)-f^{(4)}(x)+f^{(6)}(x)\cdots + (-1)^{n-1}f^{(2n)}(x)+(-1)^{n}f^{(2n+2)}(x)$$ $$F(x) = f(x)-f^{(2)}(x)+f^{(4)}(x)-\cdots + (-1)^{n}f^{(2n)}(x)$$ である.したがってその和をとると各項が打ち消しあって $$F''(x) +F(x) = f(x)+(-1)^{n}f^{(2n+2)}(x)$$ となる.ところが多項式 $f(x)$ の次数は $2n$ であったから, $f^{(2n+2)}(x)\equiv 0$ となる.よって $$F''(x) +F(x)= f(x)$$ である.以上より, $$\frac{d}{dx}\{F'(x) \sin x-F(x)\cos x\} = f(x)\sin x$$ が成り立つ.

補題3: $\int_{0}^{\pi} f(x)\sin x ~dx = F(\pi)+F(0)$.

補題3の証明: 補題2と微積分学の基本定理より,$$\int_{0}^{\pi} f(x)\sin x ~dx = \big[F'(x) \sin x-F(x)\cos x\big]_{0}^{\pi}$$ が成り立つ.これを計算すると, $$=\big(F'(\pi)\sin \pi-F(\pi)\cos \pi \big)-\big(F'(0)\sin 0-F(0)\cos 0 \big)$$ となる.ここで,$\sin 0 =\sin \pi = 0, \cos 0=1, \cos \pi =-1 $ なので, $$=F(\pi)+F(0)$$ を得る.

$\pi$ が無理数であることの証明: $x \in [0,\pi]$ の範囲で $f(x)\sin x$ を評価する.まず,$2$ 次関数 $x(a-bx)$ を考えると,$x \in [0,\pi]$ の範囲で $0 \le x(a-bx)$ であり,$x(a-bx)$ を平方完成して上から評価すると, $$x(a-bx)=-bx^2+ax =-b\big(x-\frac{a}{2b}\big)^2 +\frac{a^2}{4b}$$ $$< \frac{a^2}{4b} \le \frac{a^2}{b}= a\pi$$ を得る. したがって, $$0 \le x^n(a-bx)^n < (a\pi)^n$$ が成り立つ.一方,$x \in [0,\pi]$ の範囲で $0 \le \sin x \le 1$ なので, $$0\le f(x)\sin x= \frac{x^n(a-bx)^n}{n!}\sin x \le \frac{x^n(a-bx)^n}{n!} < \frac{(a\pi)^n}{n!}$$ を得る.よって, $$0 < \int_{0}^{\pi} f(x)\sin x ~dx = F(\pi)+F(0) < \int_{0}^{\pi} \frac{(a\pi)^n}{n!}~dx= \frac{(a\pi)^n}{n!}\pi$$ 一般に定数 $p$ に対して,$\lim_{n\rightarrow \infty} \frac{p^n}{n!} = 0$ なので,上の式において $n\rightarrow \infty$ とすると,最右辺は $0$ に収束する. したがって,十分大きい自然数 $n$ に対して,$0 < F(\pi)+F(0) < 1$ が成り立つ.これは $F(0)+F(\pi)$ が自然数であることに反する.よって,$\pi$ は無理数である.