絶対値の意味と注意点|思考力を鍛える数学

絶対値の基礎事項と間違えやすい箇所について解説します.

絶対値とは,数の大きさを表すための概念です.
実数 $x$ の絶対値 $|x|$とは, \begin{eqnarray} |x|=  \begin{cases} x &(x \ge 0) \\ -x &(x < 0) \end{cases} \end{eqnarray} として定義されます.この等式は,左辺の $|x|$ (新しく学ぶ概念,まだ定義されていない記号)を右辺で定義するという意味です.右辺は場合分けを使って書かれており, $x$ が $0$ 以上のとき $x$ をとり, $x$ が $0$ 未満のとき $-x$ をとる,という意味です.したがって,$x$ がどのような実数であっても,$|x|$ は必ず $0$ 以上になります.

たとえば, $$|4|=4,\ \ |-3|=3,\ \ |0|=0,\ \ |2-\sqrt{5}|=\sqrt{5}-2$$ などが成り立ちます.

絶対値のより直感的な意味は次のようなものです. 数直線上で,ある数 $x$ の原点との距離を $|x|$ と言う. たとえば,$|-2|=2$, $|4|=4$ となりますが,これは数直線上で,$-2$ は原点から $2$ 離れたところにあって,$4$ は原点から $4$ 離れたところにあるという意味です.

さらにこの考えを推し進めてみましょう.一般に,距離と言えば,$A$ 地点から $B$ 地点までの距離というように,異なる $2$ 点があって,初めて距離という言葉が意味を持ちます.$|x|$ は原点と $x$ との距離を表すのでした.では,数直線上で $2$ つの数 $x$ と $y$ の距離はどのように表せるでしょうか.

絶対値と平方根に関して初学者が混乱しやすいのが次の等式です.

$$\sqrt{x^2}=\left|x \right|$$

この等式を理解するためにまず,平方根とはそもそもどういったものだったか復習しておきましょう.正の実数 $x$ に対して,$2$ 乗して $x$ になる実数がちょうど $2$ つ存在します.そのうち,正の方を $\sqrt{x}$, 負の方を $-\sqrt{x}$ と書きます.また,$2$ 乗して $0$ となる数は $0$ のみです.そこで,$\sqrt{0}=0$ と定めます.これが非負実数に関する平方根の定義でした.では,上の等式を証明してみましょう.

証明: $x = 0$ のとき,$\sqrt{x^2}=0=|0|$. $x > 0$ のとき, $2$ 乗して,$x^2$ となる数のうち,正の方は,$x$ である.

$x < 0$ のとき, $2$ 乗して,$x^2$ となる数のうち,正の方は,$-x$ である.以上より, \begin{eqnarray} \sqrt{x^2}=  \begin{cases} x &(x \ge 0) \\ -x &(x < 0) \end{cases} \end{eqnarray} 一方,絶対値の定義から, \begin{eqnarray} |x|=  \begin{cases} x &(x \ge 0) \\ -x &(x < 0) \end{cases} \end{eqnarray} よって,$\sqrt{x^2}=\left|x \right|$ が成り立つ.

安直に,$\sqrt{x^2}=x$ としてはいけません.$x \ge 0$ のときは $\sqrt{x^2}=x$ が成り立ちますが,$x < 0$ のときは,$\sqrt{x^2}=-x$ です.文字 $x$ そのものが負の可能性があるということをしばしば忘れてしまいがちです.$-x$ という式を見たときに反射的にこれは負の数だ,と思ってしまわないようにしましょう.$x$ が負の数なら,$-x$ は正の数なのです.

さて,$|x|$ は数直線上で,$x$ の原点からの距離でした.これは $x$ と $0$ がどれだけ離れているかを表しています.同様にして,実数 $x,y$ が与えられたとき,その $x$ と $y$ がどれだけ離れているかを絶対値を用いて表すことができます.

実数 $x$ と $y$ の距離は, $$|x-y|$$ で表すことができる.

$x,y$ の正負にかかわらず,$|x-y|$ が $x$ と $y$ の距離を表していることを具体例で確認してみてください.差の絶対値をとることで,距離を表すことができます.

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